:農業のこれからを、学校給食でひらく
農業のこれからを、学校給食でひらく
目次
◆ファストフード化の果てに、学校給食を見直すイギリス
◆いまどきの弁当にない給食を考えたら米飯・和食に
◆まずは地元の米をおいしく食べさせることから
◆ごはんが変われば、おかずもついてくる
◆「食育」恐るべし
ファストフード化の果てに、学校給食を見直すイギリス
まずは海の向こうのイギリスで、学校給食が見直されはじめているという話から――。
イギリスの学校給食は1980年代から民営化が進められ、合理化のために伝統的な料理が姿を消してファストフード型のメニューが主流になっていた。フライドポテトにチキンナゲット、またはピザかハンバーガー。材料は冷凍食品か缶詰が多く、野菜や果物はほとんどつかない、というのが小中学校の典型的な給食内容。まるでファストフード店のメニューと違いがない。
そんな現状を憂いたのがジェイミー・オリバーという若手シェフ。有機農法による野菜や肉、魚を使って現代風のしゃれた料理をつくることで知られるこの人気シェフは、「子どもたちにまともな給食を食べさせよう」と給食改善運動に乗り出した。ロンドン郊外の小中学校で自らキッチンに入り、給食スタッフを指導しながら、新鮮な食材を使って、同じ費用で栄養のある給食をつくったのである。ファストフードを食べなれた子どもたちは当初、オリバー氏の料理を敬遠して手をつけず、おなかをすかせて帰宅するわが子を心配した母親たちが、昼食時間にハンバーガーを持参する始末だった。しかし、日が経つにつれて子どもたちは少しずつ食べるようになり、手づくりの食事のおいしさを実感するようになった。
オリバー氏は献立の改善だけでなく、ファストフードがいかに健康によくないか、を子どもたちに見せるデモンストレーションを行なった。たとえばチキンナゲットは鶏肉と呼べるようなものではなく、鶏の骨と皮をミキサーで砕き、小麦粉を混ぜてだんごにして揚げたものであることを実際につくって示したのである。こうしたオリバー氏の活動がテレビ番組で放映されると、全国的な反響が巻き起こり、小学生1人当たり約74円という学校給食の食材費の低予算にも親たちの怒りが爆発、総選挙をひかえた与党労働党も無視できなくなって、選挙公約に学校給食の改善と予算の増額を盛り込まざるをえなくなったという。(以上、阿部菜穂子「イギリスで巻き起こる『給食革命』」『世界』2005年11月号より)
果たしてこれは日本と無関係の出来事なのだろうか。いまの日本の学校給食がイギリスより格段にまともだということは請け合ってよい。だが、日本の子どもたちのふだんの食生活や好みはどうだろうか。子どもや孫の様子を思い浮かべてほしい。好物はハンバーガーやフライドチキン。ほうっておけば、野菜はほとんど食べない、という子どもが多いのではないだろうか。ファストフード文化に毒されているということでは、イギリスの子どもも日本の農村の子どもも大差ない。・・・